嗅覚受容体 追記③

嗅覚受容体からのaxonは嗅球の特定のグロメルリに投射することが知られている。Peter Mombaertsらは発生後期修正型メカニズムによってこの現象が起こるのではないかと主張している。詳しいことは6月23日の日記などを参照。
彼らの主張の場合、初期では複数のグロメルリに投射していて後期になってそれが修正されるというモデルが成り立つが、これを検証する研究がScienceに出た。

Zou DJ, Feinstein P, Rivers AL, Mathews GA, Kim A, Greer CA, Mombaerts P, Firestein S.
Postnatal refinement of peripheral olfactory projections.
Science. 2004 Jun 25;304(5679):1976-9. Epub 2004 Jun 03.

まとめ ①発生初期や感覚情報入力なしといった状況では嗅球のグロメルリは複数のOSNによってheterogeneousに投射を受けている、②発生後期ではhomogeneousなグロメルリへとrefinementされる、③グロメルリの成熟に影響を与える活動依存的なメカニズムにはcritical periodがある、④critical periodはORタンパクによって異なる


『P0からP40までのステージを追って、M71とM72のグロメルリを観察。若いステージではaxonがばらついていて、複数のグロメルリに投射しているが、P40では特定のグロメルリに限局してくるという。axon projection refinementが起きているようだ。ちなみにM71とM72のグロメルリは別々の時期に修正されるらしく、それぞれのORタンパクでタイムコースは違うことが予想される。
 すべてのOSNのaxonを染めるOMP染色と、M71(M72)-IRES-lacZのβgal染色とを比較した。そうすると、P10ではOMPとlacZがぴったり重なってhomogeneousなグロメルリになっているものと、OMP+lacZ-な(他のOR発現axon)投射があるheterogeneousなグロメルリがある。ところがP60ではM71axonのみのグロメルリになっている。heterogeneousなグロメルリへの投射axonの選択的なrearrangement(or degeneration)が起こることにより、グロメルリの修正・成熟が進むのではないかと考えられる。
 こうしたステップが、感覚情報の入力依存的に起こるのかどうかということを調べるために片側の鼻腔を閉じた場合にどうなるかという実験を行った。鼻腔が開いている側の嗅球では通常と同じであるが、鼻腔が閉じている方では複数のグロメルリへの投射がたくさん見られた。これにはcritical periodがある(ちなみにM71とM72では時期が異なる)。また鼻腔を閉じたグロメルリではlacZ-なaxonの投射が残っており、相変わらずheterogeneousな状態のまま(他のOR axonが投射したまま)であった。
 筆者らは感覚入力依存的グロメルリremodelingを引き起こす原因として、cell deathに注目した。olfactory epitheliumはOSNを新規に生み出し続け、また同時にcell deathも起こっていて、鼻腔閉鎖はこのプロセスに影響を与えたのではないか?全体的な細胞数は維持されることが知られており、鼻腔閉鎖側ではOSN産生が減少することが知られている。これは鼻腔閉鎖側で細胞生存期間が伸びていることを示唆している。P10でBrdUによって分化上皮細胞をラベルし、同時に鼻腔閉鎖を行い、P20でBrdU+を調べたところ、より多くの細胞がBrdU+であった。このことは閉鎖側で多くのOSNが産生されたか、長く生存したことを示唆している。(しかしこのデータはheterogeneousな投射の修正と、これらの新生・生存細胞との関係を結ぶものではない)』


鼻腔閉鎖によって複数のグロメルリへの投射という不安定な(同時に初期的な)段階が維持されていると仮定する。またMombaertsらのモデルから、通常、不安定なOSNは例えばcell deathによって除去されると考えられる。そうすると、通常よりも鼻腔閉鎖ではcell deathが減少しているはずである。BrdUの実験結果は、もしかしたらcell deathの減少を示唆しているのかもしれない。とはいえ、もうちょっと詳しく見てほしい。