β-Neurexinによる、Neuroliginを介したシナプス誘導

Graf ER, Zhang X, Jin SX, Linhoff MW, Craig AM.
Neurexins induce differentiation of GABA and glutamate postsynaptic specializations via neuroligins.
Cell. 2004 Dec 29;119(7):1013-26.

 シナプス結合の形成には、プレシナプスの伝達物質リリースサイトのちょうど反対側にポストシナプス伝達物質受容体の配列が必要である。β-NeurexinとNeuroliginはシナプスにおいて、プレシナプスとポストシナプスに局在し、トランスに結合している。神経筋結合部においてはAgrinなど、シナプスを誘導し位置決定する分子が知られていたが、中枢神経系では知られていなかった。今回、β-NeurexinとNeuroliginが直接的にシナプス分子群を誘導できることがわかった。哺乳類において、シナプス接着分子としてシナプス誘導できる分子の初めての報告。そういう意味で、非常に重要な論文だ。
 この論文では、海馬神経細胞を培養して、その上にNeurexinやNeuroliginを発現させた細胞を乗せたり、タンパクをコートしたビーズを載せたりして、下にひかれた樹状突起や軸索に、シナプス分子が集積するかどうかを調べている。
 今回、リコンビナントβ-Neurexinをコートしたビーズを用いた実験により、β-Neurexinだけで、コンタクトしている樹状突起においてグルタミン酸型のポストシナプス分化を誘導するのに十分であることがわかった(PSD-95、NR1の濃縮)。β-Neurexinは同時にGABA型のポストシナプス分化をも誘導する(Gephyrin、GABARγ2の濃縮)。逆にNeuroliginはグルタミン酸型・GABA型の両方でプレシナプス分化を誘導する(VGlut1とGADの濃縮)。endogenousなNeuroligin-1,3,4はグルタミン酸ポストシナプスに局在するが、Neuroligin-2はGABAシナプスに局在する。YFP-Neuroligin発現神経細胞の上にanti-YFPをコートしたビーズを置いて、YFP-Neuroliginをanti-YFPコートビーズで集めるという実験により、Neuroliginの直接の凝集によって、Neuroligin-2とGABAやグルタミン酸ポストシナプス分子との連結が明らかになった。しかし、他のNeuroliginはグルタミン酸ポストシナプスのみ誘導可能であった。さらに、Neuroligin-2を大過剰発現した細胞における誤局在はポストシナプス分子をdisperseにし、シナプス伝達を乱す。Neurexin-Neuroliginの結合はGABA作動性とグルタミン酸作動性のシナプス形成を調節する重要なコンポーネントであり、アイソフォームの局在と結合アフィニティーの違いが適切な分化と特異性に貢献しているのだろう。

 「Neuroligin-1, 3, 4が興奮性で、Neuroligin-2が抑制性」という明瞭な分離ではなさそうだ。たしかにエンドのNeuroligin-2は抑制性にしか局在していないが、Neuroligin-2を凝集させるとPSD-95も誘導できる。またNeuroliginsとPSD-95のinteractionがあるそうだ。GephyrinなどGABA型の分子とのinteractionはまだ見つかっていない。GABA型に関しては、まだ何か隠されたメカニズムがありそうだ。

 他のポイントとしては、(1)培養日数には依存しないこと。つまり2,3日という非常に若い神経細胞でも誘導できる。このことも、Neurexin-Neuroliginは初期のシナプス形成(誘導)に非常に重要で、必要十分な因子であることを示唆している。(2)Neurexin-Neuroliginによって、NMDARのサブユニットNR1は誘導できたが、なぜかAMPARのGluR1,2は誘導できなかった。これは面白いかもしれない。(3)ドメイン解析により、LNSドメインが重要ということがわかった。