筋萎縮性側索硬化症の薬

先日の文献セミナー。自分で読んだわけではないので、間違っているところがあるかもしれません。ご了承ください。
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS、俗称:ルー・ゲーリック病)の治療の話。進行性運動神経変性疾患であり、頻度は10万人に2〜4人、好発年齢は40-60歳。ルー・ゲーリック氏は米国の有名なプロ野球選手で、この病気で亡くなった。英国の天才宇宙物理学者ホーキング博士が、この病気になっていて有名。運動神経の細胞が原因不明のまま少しずつ失われ、変性性の神経・筋肉疾患で、筋肉の衰退と萎縮をもたらす。
家族性ALSから見つかった原因遺伝子として、SOD-1が知られている。もともとはSOD-1は活性酸素を無毒化する機能を持つタンパク質。しかし、SOD-1にmutationが入ることによって、Astrocyte(上位neuronからMotor neuronへのグルタミン酸伝達物質放出を制御する)内でSOD-1がアグり、AstrocyteのGLT1(or EAAT2 :グルタミン酸トランスポーター)が機能不全になり、上位neuronからMotor neuronへのグルタミン酸作動性のシナプス伝達において、グルタミン酸がたまる。これが原因の一つであると考えられている。(ちなみにMotor neuronのSOD-1がアグり、Motor neuron自体が細胞死するという説もあり。)
家族性ALSで見られるようなmutantSOD-1を発現したトランスジェニックマウスはALSの様々な症状を示し、モデルとしてよく使われている。このモデルマウスを使って、FDA米食品医薬品局)に登録された薬を用いて、GLT-1発現上昇するものをスクリーニング。β-ラクタム抗生物質のセフトリアキソンなどを見つける。セフトリアキソンを投与すると、mutantSOD-1トランスジェニックマウスのneuronの消失と筋力の低下を遅らせ、マウスの生存率を上昇させた。セフトリアキソン自体は認可された薬なので、今日明日にでも使えるというところが魅力。FDA認可薬からスクリーニングしたというところが秀逸である。
他にもレンチウイルスを用いて、SOD-1をRNAiしてやるという方法も紹介された。この場合、mutantSOD-1特異的なRNAiベクターの作製と、導入方法・効率が問題となろう。
以下元論文。

Rothstein JD, Patel S, Regan MR, Haenggeli C, Huang YH, Bergles DE, Jin L, Dykes Hoberg M, Vidensky S, Chung DS, Toan SV, Bruijn LI, Su ZZ, Gupta P, Fisher PB.
Beta-lactam antibiotics offer neuroprotection by increasing glutamate transporter expression.
Nature. 2005 Jan 6;433(7021):73-7.

Ralph GS, Radcliffe PA, Day DM, Carthy JM, Leroux MA, Lee DC, Wong LF, Bilsland LG, Greensmith L, Kingsman SM, Mitrophanous KA, Mazarakis ND, Azzouz M.
Silencing mutant SOD1 using RNAi protects against neurodegeneration and extends survival in an ALS model.
Nat Med. 2005 Apr;11(4):429-33. Epub 2005 Mar 13.

Raoul C, Abbas-Terki T, Bensadoun JC, Guillot S, Haase G, Szulc J, Henderson CE, Aebischer P.
Lentiviral-mediated silencing of SOD1 through RNA interference retards disease onset and progression in a mouse model of ALS.
Nat Med. 2005 Apr;11(4):423-8. Epub 2005 Mar 13.