論文 シナプス構造・形成に関わる遺伝子の網羅的解析(線虫、RNAiを用いて)

Systematic analysis of genes required for synapse structure and function
Derek Sieburth, QueeLim Ch'ng, Michael Dybbs, Masoud Tavazoie, Scott Kennedy, Duo Wang, Denis Dupuy, Jean-François Rual, David E. Hill, Marc Vidal, Gary Ruvkun and Joshua M. Kaplan
Nature 436, 510-517 (28 July 2005)

『化学シナプスは、神経系内の迅速な細胞間シグナル伝達を担う複雑な構造である。プロテオーム解析からは、シナプス部の特殊化した構造にかかわる数百種のタンパク質があるだろうと予測されている。本論文では、線虫(Caenorhabditis elegans)の神経筋接合部の機能または発生に必要な遺伝子を同定するための、系統的なスクリーニングについて述べる。アセチルコリン分泌の減少を導くRNA干渉スクリーニングで、総計185個の遺伝子が同定され、そのうち132個は従来シナプス伝達にかかわると考えられていなかったものである。これらの遺伝子の機能的プロファイルを、さまざまな条件下でRNA干渉を行った場合の分泌異常を比較することで決定した。階層的クラスタリングで機能的に関連した遺伝子群が同定され、その中にはシナプス小胞の循環にかかわるもの、神経ペプチドのシグナル伝達にかかわるもの、ホルボールエステルへの反応性にかかわるものが含まれる。24個の遺伝子は、シナプス前部位に局在するタンパク質をコードしていた。12個の遺伝子は、機能喪失変異を起こさせるとシナプス前構造に欠損が生じた。』
ニューロンニューロンの間にあるシナプスで機能するタンパク質を体系的に同定しようという試みはずっと以前から行われてきたが、今回RNA干渉(RNAi)を応用することで、細胞間シグナルの伝達にかかわるタンパク質についてこれまでになく大量の情報をようやく得ることができた。J KaplanたちはRNAiを使うスクリーニングによって、線虫(Caenorhabditis elegans)の神経筋接合部の機能あるいは発生にかかわる185個の遺伝子を同定した。そのうち132個は、このような役割を持つ遺伝子だとはこれまで考えられていなかった。これとは別にG Ruvkunたちが、網膜芽細胞腫経路の遺伝子が線虫のRNAiを負に調節するという予想外の発見を報告している。この知見によってRuvkunたちは、網膜芽細胞腫経路やRNAi経路の複数の遺伝子に変異のある線虫を作出した。このような多重変異があるために、この線虫ではRNAiの効率がよくなり、 RNAiを用いるスクリーニングなどでより便利に使える。Kaplanたちが、ニューロンのシグナル伝達をこれほど詳しく調べられたのは、遺伝子操作したこれらの線虫を使ったからである。「今回の研究によって、この分野の今後の実験水準が高まるだろう。今回の研究は、スクリーニングによって遺伝子のリストを作ったというだけではなく、遺伝学と分子生物学、それにデータ解析の考え抜かれた協力の成果といえる」と、C BargmannがNews and Views で述べている。