ナルコレプシー

今日はテキサス大学教授の柳沢正史さんが研究所に来訪しセミナーされたので、ものすごく久しぶりにセミナーに出席した。
ナルコレプシーは、日中強い睡眠発作に襲われ突然眠りに陥る疾患で、若年成人期に発症する。しばしば夜間の睡眠障害や脱力発作、入眠時の幻覚、金縛り状態などを伴う。ナルコレプシーのマウスや犬の動画を見ると非常に興味深く、本当に、突然、「かくん」と眠りに落ちる感じである。
柳沢さんらの研究グループは、1998年に食欲促進物質としてオレキシンを発見し、翌年それが睡眠覚醒にも深くかかわっているとして、世界で初めて直接に睡眠を制御する遺伝子メカニズムを解明した。ナルコレプシーが、脳内の視床下部から分泌される神経伝達物質であるオレキシンが欠乏することによって起こることを、オレキシン遺伝子が欠損してオレキシンをつくれなくなったマウスを用いた研究で突き止めている。
とにかく明解で美しい研究だなと感じた。また、オレキシン以外にも、他のGPCRs、Neuropepitideを解析されていて、話はとても面白かった。
睡眠はほぼ全ての哺乳類と鳥類が持つ共通した行動特徴であり、非常に身近な現象であるにも関わらず、睡眠の生理的意義や制御などはあまりわかっていない。睡眠の制御やREM、non-REM睡眠の特徴や機構などは徐々に明らかにされてきているが、睡眠によって脳が一体何を行っているのかということになると、ほんとにさっぱり分かっていないのではないだろうか。
オレキシン産生神経細胞視床下部でのみ存在する。睡眠を含む、我々の脳機能は複雑な過程の結果であると考えられがちであるが、実は結構、ごく一部の神経細胞によって調節されているのではないかと思う仕事だった。そうであるならば、病気の治療や、或いは感情のコントロールというものも案外それほど困難ではないかもしれない。