(12) キャリア開発セミナー その1

昨日、研究所内で開催された「第1回キャリア開発セミナー」というものに参加してきた。研究所が主催する、研究所で働く研究者・技術者などの方に対する、キャリアパスについて考えるセミナーだ。「開発」という言葉が付いているが、別に今のところ、何かをしてくれるわけではない。視聴者の面々は、各ラボの修士2〜博士2年あたりの学生さん、若手の研究員といった方だった。やっぱりみんな悩んでるんだよ。ただ、参加人数は10名程度で非常に少なかった。みんな関心はあるが、「こんなセミナーに出る暇があったら、少しでも実験していい結果を」という考え方の表れかもしれない。
外部から、小林信一さん(筑波大学 ビジネス科学研究科)と、山本一喜さん(株式会社積水インテグレーテッドリサーチ 主任研究員)を招いて、その講演と、研究所が提供するキャリアサポート室の業務内容の紹介がプログラム内容。
まず、研究所の理事の方が、冒頭で、「競争的資金の新規作成やインフラの整備などだけに力をかけ、人材の育成・活用に重点を置いてこなかったために、現在のような状況を引き起こした。研究者の雇用は不安定過ぎて、『子供は決して研究者にしたくない』『研究者は結婚できるような状態ではない』などの話をよく聞く」といった話をされた。


小林さんはまず基本的に、博士過剰とポスドク問題について、現状の深刻さなどを説明された。いろんなとこですでに話題になっていることがほとんどだったので、面倒臭いのであえてここでは詳しく書かないことにする。就職率が悪いだとか、アカデミックポストの競争の熾烈さとか、そういう感じ。
キャリアサポートへの取り組みという話の流れから、まず、大学等の雇用機関でポスドクがどういう状況にあるか、そしてポスドクがどう捉えられているかが説明された。まず、ポスドクの問題点について、
雇用が不安定であること
現在と未来の両方における不安定性
処遇上の不利益
社会保険、年金、退職金など。特に雇われるタイミングなどで個々人が異なって決定され、同一の研究室内でも待遇がバラバラ。このような非実力主義的な待遇区別は当然不満を生む。
独法の財務制度のためポスドクはPIになれないこと
ちょっとよくわからなかった。
集合的研究と個人のキャリアのパラドクス
集合的・分野横断型プロジェクトの拡大などによって、個人の貢献の分散・減少。1人の研究者が1人の技術力のみで研究室にこもって成果を出すという、従来のスタイルではなくなってきた。大人数が関与する大規模研究が国際的競争の前に必要であり、そうしたプロジェクトでは、プロジェクト達成と個人貢献の評価が難しい。また、プロジェクト管理における、ボスとポスドクの責任のあいまいさ。成果が多分野に分散するため、若手キャリア形成に不利。
研究者の性質の変化
「組織に所属する研究者」から「契約で活動する研究者」へ転換されたにも関わらず、日本では長期にわたって契約研究員を繰り返す、積極的キャリアパスはほとんど不可能。

そういったことから、ポスドク忌避、博士課程忌避が浸透し、研究人材の質低下、生産性低下、科学そのものへの信頼低下などが懸念されるといった内容。


さて、それを受けて、ポスドクをどう捉えるか、だが、
まず、大学等の大きな機関ははっきり言って放置。キャリアサポートを組織として取り組んでいない所がほとんど、というかポスドクの人数把握すらできていない現状。
次に、ポスドクは研究成果の重要な担い手であり、人材育成や人材流動性の重要性を主張されていた。そして、ポスドクの使い捨てをやめさせるために、キャリアパスの多様化を推進しましょう、それには意識改革が重要で、研究職という従来のコースだけではなく、科学技術システムの運営を支える職務や科学技術ジャーナリズムを含む多様な専門的職業を目指そうというもの。ここでも従来から色々言われていることだし、「こういう職業もあり得るか」というような、特に真新しいものは感じなかった。
対処の模範例として、

  1. アメリカでのAmerican Association for advancement of Science(AAAS)
  2. フランスのAssociation Bernard Gregory(ABG)
  3. イギリスのResearch Career Initiative(RCI)

を紹介。ただ、それぞれ、キャリア支援を行っているという印象だけで、いまいちどういったことが行われているのかが不明瞭だった。そのうち調べてみようと思う。アメリカのAAASがその中でもある程度具体的だなと思った、例えば、1年間実務経験のフェローシップであったり、報道機関での実務的サマープログラムであったり。ちなみにAAASフェローシップ終了後の進路で、意外と多いのは行政職や管理運営職。そういったところで博士が力を発揮しているわけだ。それに関連して、昨今では、独立行政法人 科学技術振興機構JST)でも博士の学位を持っている人を積極的に採用してきているといった話も。ちなみにAAASは科学ジャーナル「Science」を発行しているところ。
最後にこの前予算がついた、科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業について、北海道大学東北大学早稲田大学など計8つを軽く紹介。
まとめとしては、結局、どこでも疑問に思うことだが、「やばいよ、大変だよ」という話ばっかりで、「で、結局、どうしたらいいのか?」というところには触れられなかったので、あまり新しく得るものはなかった印象を受けた。質問でも、「問題なのはわかりますが、では結局、具体的にはどうしたらいいのか?」という質問が出ていたが、小林さんの回答は「それぞれの機関での取り組みを見守りたい。」というようなものだった。これは非常に残念だった。というか、結局、ある程度の専門家でもどうしたらいいのかわからないのね、というような印象を受けた。