(13) 研究内容や業績の発表

(7/31追記)

(いつも情報をいただいているvikingさんのブログ(大「脳」洋航海記)の、06/6/14の「博士の就活って大変みたいですね」というエントリーで、僕が「博士課程の就職活動について」カテゴリーでつらつら書いたことを紹介してもらいました。そのコメント蘭に、研究内容の発表についての議論が少しされました。Tさんの主張からは少し外れますが、「自分のやってきた研究を面接で発表するときどうだったかな」ということを考えて思い出して、少し文章として残しておこうと思い、今回、このエントリーを書くことにします。)



最初に断っておくが、企業経営と直接関わるような研究をしていて、その経験や業績を活かして企業研究者等に就職する場合を除いて話すことにする。その場合は学会発表や論文発表のように、自分の知識や経験、業績を大いにアピールするべきだろうし、専門的な能力を披露してもよいだろうと思う。僕は基礎研究をやっていたので、そのような企業にめぐり合うことは少なく、従って、上記のケースには当てはまらない。この場合について述べることにする。


業種別採用をしている会社であれば、例えば、研究職・開発職あたりで、大学で行っている研究に関するプレゼンを行うことがしばしばあった。それは、書類提出だけで終わる企業から、1つの面接となってパワーポイントを用いて発表する企業まであった。
自分は実は研究内容を書類で送るときには、最初はかなり手抜きをしていた。手抜きとは、学会発表や学振の書類などで用いた資料を簡単に手直ししてそれを送ったということだ。手抜きをした理由は、その書類の内容で、背景・実験内容・結果・考察という一連の流れは当然できているはずで、書類を作る時にうんうん唸って推敲して作ったものだし、教官のチェックもパスしているから、論理矛盾はないし、完成度は高いと思っていたからだ。手抜きと表現した理由は、後からこれではまずいと気付いたからだ。実際に面接官から、「研究内容の書類を見ても、さっぱりわからなかったけどね」と何度も言われた。結局、その面接はクリアしたが、その話を聞いたとき、「そうか、あれではまずいのだ」と思ったのだ。


バイオ→製薬の研究職のように、研究内容が深く活用されるであろう就職の場合を除いて、自分の研究内容を事細かに話すことは、よくないように感じられた。特に低次元の面接において、研究の詳しい内容を伝えても面接官にはほとんど伝わらないように感じた。これは実は至極当然なことで、例えば僕は分子生物学専攻であるが、ちょっと近いようで遠い、例えば生態学環境学とか、或いは有機化学とかの研究の内容についてのプレゼンを聞いたとしても、最先端の専門的な研究内容はほぼ8割9割わからないだろう。実際、化学方面の博士の方と2人で、集団面接を受け、研究内容の発表をさせられたことがあったが、相手の研究内容を聞いてもほとんどわからなかった。わからないというか、「ふーん…で?」という感じ。多少、ニュースで耳にしたことがある内容だったり、自分の研究内容と少しでも重なっていたりすれば興味は湧いたが、それ以外ではお話を聞くだけという感じであった。


で、当然のことながら、どこを聞くかというと、というか、どこが耳に入るかというと、
◇「その研究は、その分野において、どのような位置付けなのか。みんながやっているのか、それとも独創的なのか。最先端なのか。その分野において主導権を持っているのか。」
◇「なぜ、そのテーマを研究するに至ったのか。今までどういった状況であって、この研究を行う価値はどれぐらいなのか。」
◇「どうやってそのテーマを選んだのか。やれと言われたからやっているのか、そうではなく、自分で見つけてきたのか。」
◇「そのテーマが達成されれば人類社会にとって、どういったことに役立つのか。どういう見返りが期待されるのか。」
このあたりに興味が湧くのだ。面接官なら、もっと上記の側に傾いているだろう。


その研究を企業でやるわけじゃないんだから(これ重要)、事細かに研究内容を話されても面接官は困惑するだけだと思われる。なぜなら、そもそも面接官は、その研究内容自体を深く理解しようと思っているわけではなく、研究内容の発表を通して、学生の研究者としての姿勢や発表能力を見たいと思っているからだ。研究内容に素人な面接官に対して、噛み砕いてわかるように説明できない、研究の意義を納得させられないというのは、発表能力としてはダメなわけだ。


このことから、上記の点を加味して、「背景」「研究目的」「研究方法」「結果」「考察」の他に、「なぜその研究を自分がやっているのか」、「その研究が達成されれば実生活でどのようなことに役立つのか」というようなことも含め、他分野の修士・博士課程の人でもわかるような平易な内容にすると良いのではないだろうか。そして、「自分がその会社で手がけたい仕事に、自分がやってきたことがどのように役に立つのか」ということも自己PRしたい。そもそも研究発表も、自己PRの一環なんだから。「仕事できますよ」というアピールの一環に他ならない。


研究内容を発表した後、面接官からは色々質問されると思うが、研究内容自体の質問以外の質問をされることが多かった。これは、研究内容の発表は研究内容を知りたいから行っているわけではなく、他の面を見ようとしているのだという、まさにその表れではないだろうか。


◇「大学での研究と、企業研究との違いは何だと思いますか?」
:基礎研究と応用研究の違いを把握して、企業は必ず「どれぐらい儲けられるか」という視点が核であるというポイントを突きたい。また、僕は、自分の研究の重要性を語りながらも、基礎研究の不満を述べ、なぜ選考を受けようと思ったかという、志望動機のアピールにつなげた。
◇「あなたの研究の重要性はわかりましたが、なぜその重要な研究をやめて就職しようと思ったのですか?」
:これはなかなか鋭い質問で、志望動機の核心を聞かれているわけだ。おのおの違うだろうし、以前にも書いているので、あらためて書かないが、博士課程の人はこの質問にはしっかり答えられなければならない。
◇「アカデミックポストと、企業への就職と、そのどちらもが叶うとしたら、あなたはどちらを選びますか。またその理由は?」
:こういう聞かれ方もあった。上記の質問と似ていて、両方とも根底では、アカデミックポジションへの未練を見ているようだ。ここで、未練があるとか、仕方がなく就職活動をしているとか、「第二志望」感を出してしまってはおしまいだ。「嫌々来ました」や「保険で受けています」では通るわけがないだろう。


また、研究内容を雄弁に語ることが、アカデミアへの未練と受け取られるときもあるようなので、それも気をつけた方がいいようだ。自分の研究の重要性を熱く語り過ぎると、「そんなに大事なら、そんなに面白いなら、そっちで頑張ればいいのに…」と思わせることになる。今までとは違ったバックグラウンドの職業に就こうとするなら、特にこの研究への未練は大きなマイナスポイントとなる印象を受けた。

ちなみに、「博士の就活って大変みたいですね」というエントリーのコメントでTさんが指摘されているように(以下)

再生医療関係の基礎研究を行っている「はず」の会社に、そういう売り込みで面接に望んだ経験があります。
面接で、そういうことがやりたい(出来る)ことを伝えると、面接官はしどろもどろになり、
「実は大々的に宣伝をしていますが、あの研究に社員は関与せず、大学で行われているわけで云々」
結果は当然不合格。今となっては当たり前のことになりましたが、企業イメージ向上のための戦略というものが存在する

ということは、実際、たくさんあるようだ。多数の社員が関わって行っている研究でないけれども、最先端研究もやっているという宣伝効果があるために、就活のサイトなどで大きく報じているケースも多いようだ。で、その研究は、特殊な、例えばごく一部の優れた研究員だけとか、研究の半分ぐらいまでをよそでやってて途中からこっちに来て資金だけ出して継続させているようなケースも多々あるようなので、「新入社員として御社に入って、この研究がしたい!」と言うと、「いやー…、それはちょっとねぇ」と言われる場合も多いようだ。