(15) 「年齢」と「雇用メリット」について その4

9月11日の日記9月12日の日記9月13日の日記と3回、「年齢」と「雇用メリット」についてエントリーを書いてきましたが、その4とその5を書きたいがために、このエントリー群を書いています。
これまでに「年齢」の問題を取り上げてきましたが、それに「雇用メリット」の問題を付け加えて、今回のその4では、実際に「年齢」と「雇用メリット」が、就活の際にどう影響するかということを、当たり前のことかもしれないが、あえてストレートに言及したいと思います。


(15-4)「雇用メリット」による加算と、「年齢」による減算
9月13日の日記に、「大卒女子」の話が少しだけ出たが、実は「大卒女子」のことを考えると非常に頭がすっきりした。
企業説明会などでも、女性の育児休暇やキャリアパスの平等性を謳っている所は沢山あった。また、学生の質問にもよく聞かれた。たとえ表面上であったとしても、女性雇用差別をしないと宣言することによる、少なくとも企業の就職の際のイメージアップはなかなかのものがあると思う。
さらに、単に「男女差別をなくそう」という倫理的・政治的圧力があるから女性を雇用するというのではなくて、女性ならではの能力や感性を活かして企業がメリットを得る(例えば、女性が使う商品のマーケティングは当然女性の方が行いやすいというようなこともあるだろう)、ということも当然沢山あるはずだ。
ただし、これには企業の経営内容が深く関わってくるわけで、女性があまり関わってこないような職場なら、本音を言えば女性を採るメリットは少なく、従って男女平等雇用は残念ながらそれほど拡大しないだろう。就職活動する学生側もそれは十分に情報収集するだろうから、例えば、「女性でも差別されず存分にキャリアアップしていける企業を選ぶ」ということになるわけだ。

このように考えると、企業が「博士・ポスドクの雇用メリット」を見つけ出せるかという所に問題が到達する。「専門性の活用」、及び「最先端科学を経営に取り込んでいるというようなイメージアップ」も含めて、その雇用メリットを用いて他社よりリードすることを狙うことになる。「博士・ポスドクならではの能力や感性を活かして企業が経営上のメリットを得る」ことがやはり根底に必要になる。で、その「メリット」を見つけ出した企業は、博士・ポスドクの雇用に垣根を作ることなく、積極的に雇用を行ってくれるようになるのだろう。補足として、大卒女子の問題と大きく異なるのは、「年齢を失ってでも価値のある能力や感性」である。ここのところが、問題を極端に複雑化しているような気がする。このような「博士・ポスドクならではの能力や感性」はどのようなところにあるのだろうか。

ゆえに、雇用される側は、当然ながら「いかに雇用メリットを持った人間になるか」ということになり、就職活動に際しては、「その雇用メリットをいかにアピールできるか」が最も問題なわけだ。


上記のことをまとめて、式で表すとすると、

博士・ポスドクの就職値=「就活で一般的に判断される要因(学歴、能力、性格など)」+「博士・ポスドクならではの雇用メリット」−「高年齢のデメリット」

ということになる。
(なんだか式で見ると、余計に当たり前の構図になったが…。)


これで見ても、やはり「0から頑張ります」や「取り返します」ではダメ。修士の人と比べて自分の利点は何か?博士課程で得たものは何か?そこを深く深く掘り下げて、ポジティブに表現し、「博士・ポスドクならではの雇用メリット」をとにかく大きくするように努力すべきなのだろう。


補足として、「博士でも企業ランクを下げれば、雇用はありますよ」という意見はもちろん正解だろうが、その場合は、上記の式の「就活で一般的に判断される要因」が大きく受け取られるため、「高年齢のデメリット」によるマイナスを含めても、総和が上昇するからだろう。例えば「学部・修士卒では、こんな学歴の人はうちにはなかなか来てくれなかった」ということだろう。個人的な意見だが、このようなケースは基本的に「幸せな就職」から離れている気がしてならない。なぜなら、「それならば、修士で就職しとけばよかったのに…」と必ず思うからだ。
また、企業の人がよく言う、「能力が高い人ならもちろん採用しますよ」というのも、「就活で一般的に判断される要因」がばかでかい状態の人を指すので、これも「高年齢のデメリット」を差し引いても総和として大きくなり、採用されやすいということになる。
さらに、「0から頑張ります」でいける場合もあるだろうが、それは「就活で一般的に判断される要因」から「高年齢のデメリット」を引いたものが非常に高い場合に限られる。


ところで、男女の雇用均等は果たして本当に行われているだろうか?院卒で就職していった女性の友人達も、横で見ていて、やはりかなりの不遇を味わっているように見えた。男女の雇用均等という、誰もがそうなるべきだと思うような事柄でさえ、その程度なのだ。とすれば、博士・ポスドクの雇用機会の改善に関して、抜本的な改革など期待できるはずもなく、個人責任によって、個人個人が切り開いていくしかないのだろう。
とはいえ、化粧品業界のように、働く女性を積極的に採用する企業もあるわけで、同じように「博士・ポスドクならではの雇用メリット」を見つけて積極的に採用してくれる企業もどんどん現れてくるだろう。逆に、就職活動する本人たちは、女性たちが差別なく生き生きと働ける企業を必死に探すのと同様に、「博士・ポスドクならではの雇用メリット」を見出してくれる業界・企業を積極的に探し、自己能力を高め、アピールするしかない。つまり、「雇用メリットを見出してくれる企業をいかに探し出せるか」というところにも重要なポイントが来る。


もう1つ、上記の式には、隠れた因子があって、それは経済全体or特定の業界の好況・不況である。
博士の就職に関して改善しそうなことは、企業側の採用が緩和するのではないかと思うことだ。「広がる」のではなくて「緩む」というイメージかもしれない。この前のセミナーで企業研究者の方も「今がチャンス」とおっしゃっていたが、そういう雰囲気はあるのだと思う。2007年度の新卒採用の就職活動イメージは「楽」だったそうだ。2位は「迷」(内定企業を選ぶときに悩むという嬉しい迷い)、3位は「動」だ。一方、就職氷河期と言われた2001年では、1位は「苦」、2位は「耐」、3位は「忍」だったそうだ。不況で採用者が減少しているときでは、"あえて"色々な問題がある博士・ポスドクを採用に考慮することはリスキーだ。ところが、今は、景気回復や2007年度問題などの労働者不足によって、採用枠を広げようとする傾向が強いように思える。また単純に採用の母集団が広がれば、当然そこに色々な経歴の者が取り入れられるチャンスが広がる。「ま、こういう経歴のやつも採ってみるか。案外面白いかもしれんな。」という、心の余裕が生まれる。また、企業は、専門者を増やして新しいプロジェクトに着手するなど、新天地開発に余念がないだろう。こういう時流には、博士やポスドクの採用も増えると思う。
ただし、読売新聞に掲載されていた、「人材不足だとしてもフリーターの正規採用は88%が消極的(経団連調査)」という記事にもあるように、人材受け入れの許容範囲を「下げよう」という姿勢ではあまりないのかもしれない。リストラを進めてきて一段落ついた企業にとって、リスキーな人材を雇用することに関しては、実は心はさほど緩んでいないのかもしれない。