(19) 博士派遣と進路アドバイスなど

最近、5号館のつぶやきさんや、大脳洋航海記のvikingさんが、博士派遣などに関してエントリーを書かれています。
博士派遣社員
ドクター問題その後(3): 日本の研究者養成システムは既に崩壊している

以下は僕の感想です。あまりたいしたことは書いていません。


実際、派遣業者は研究所内でも見られる状態になってきました。自分の分野の派遣業者に関しては、少々知識があるので、所内で姿を見るのに先日気付きました。初めは驚きました。ここまで来ているのかと感じました。企業就職に関心がない、学生や研究員の方はその事実には気付いておられないようでした。「業者の一人」という印象しか持っていないようでした。『何を商品として扱う業者なのか』という所が他の業者と根本的に異なっていますが。
ところで、自分自身の就職活動でも、万が一正社員での雇用が困難であるならば、派遣社員という道も選択肢に入れなければならないと思ってました。しかし、仕事の質や給料は置いておいても、そのイメージからだけでも、派遣社員という言葉そのものに、相当な嫌悪感を抱いていたのは紛れもない事実です。大変失礼な表現かもしれませんが、正直な気持ちです。例えば学部や修士の時に就職活動していたと仮定し、自分自身が就職活動したであろう企業相手を考えれば、その当時派遣社員になろうとなんて毛ほども思わなかったはずです。そして、博士課程に行くからには自己の価値を向上させると考えて進むはずです。ならば、僕を含め、相当な数の人が嫌悪感を抱くのは当然です。自分自身の就職活動の時は、「派遣社員になるならば、自分のやりたいことや好きなこと、職種を捨ててでもとにかく正社員採用を探そう」とすら思っていました。
もちろん、派遣社員という存在そのものが良いか悪いかは別問題です。人間には様々な働き方があると思っています。ただ、事実は事実として述べています。


後輩に対する進路アドバイスとして、
「悪いことは言わないからアカデミアなんてやめとけ。研究者なんてやめとけ。」
という意見は、それはもう嫌というほど耳にしました。先輩研究者から。或いは教官さえも多くの方がおっしゃってました。vikingさんがおっしゃる通り、異常な状態です。
僕自身も、もし相談を受けたなら、特に高学歴な学生に対しては、
「せっかく、その能力や学歴を活かして優良企業に就職できるというのに、わざわざ死地に赴くような選択はやめておけ。あなたの能力が高くても、運が悪ければ活路がなくなる状況も起こりうる。そんな博打を打つのはもったいない。」
とアドバイスするでしょう。嫌な表現かもしれませんが、学歴やコネは現に存在しますので、そういったことも含有して現実的に考えています。
博士課程やポスドクに進もうと思うものは、多くは自分の能力に大きな自信を持っていると思いますが、
「能力が高くても、運が悪ければ深刻な状況に陥るかもしれない。運が悪かったら生き残れない、これを納得して、それでも良いと思うなら進めばいい。」
と言われて、納得する人間が果たしてどれほどいるでしょうか。


ところで、基本的には、企業就職していった同期や先輩からこのようなことを一度も聞いたことはありません。もちろん、企業によっては仕事内容が過酷過ぎる所もあるし、人間関係がうまくいかず悩む友人もいます。例えば、労働時間が長くてしんどいだとか、上司と合わないだとか。しかし「近い将来に職を失うかもしれない恐怖」は別格だと感じます。そういう、容赦ない恐怖は友人から耳にしたことはありません。
このような状況で、もしも修士の人が情報を手に入れて進路選択をするならば、誰がアカデミアに進むでしょうか。昨今の状態は、情報不足が原因となっている部分が大きい気がします。現状が進路選択時に正しく伝われば、アカデミックキャリア敬遠、博士敬遠が急速に加速するのではないでしょうか。


一方、最近の状況で、博士課程の就職は改善しそうな印象を受けています。理解の進展と、あと景気回復と団塊の世代の大量退職が影響しているのでしょうか。
そのため、博士新卒がかろうじて良いイメージを持てる最後の限界で、それ以降(ポスドク以降)は極端に状態が悪化するようなイメージを持ちます。
企業の博士新卒採用に対する理解は少しずつ進む一方、ポスドクへの理解は遅々として進まないように感じています。それは、ポテンシャル採用としての採用限界が博士新卒であり、ポスドクはポテンシャル採用されないためではないかと思います。ポスドクは研究内容の一致などが重要であるように思えます。となると、商品やサービスと直結しない基礎研究分野のポスドクが最も過酷ということになるのではないでしょうか。