硫黄島からの手紙 [DVD]
(映画の感想5) 硫黄島からの手紙 ★★★★★
先日、公開中の映画、『硫黄島からの手紙』を観てきました。
そもそもは戦争映画が好きではありません。性格的に感情移入が激しいので、衝撃が強いストーリーを好まないためです。しかし、この映画はなぜか「見た方がいい」ような気がして足を運びました。
評価は満点。渡辺謙二宮和也の演技は非常に良かったです。
ただ、表現が穏やかではないので、ショッキングな映像が苦手な方は気をつけた方がいいです。


この映画は、監督はクリント・イーストウッド、『父親たちの星条旗』と対になって、硫黄島における日米両軍の戦いを双方の視点で描かれたものです。

硫黄島の戦いとは何か。説明するのも大変なので、ググってもらえば沢山出てきますが、すごく簡単に書くと、太平洋戦争末期、本土防衛の最後の砦として硫黄島で起こった、日本軍とアメリカ軍の最も悲劇と言われる激戦。日本軍は20,933名の守備兵力のうち20,129名が戦死。アメリカ軍は戦死6,821名、戦傷21,865名の損害を受けました。日本軍を指揮した栗林忠道中将は最も優秀な指揮官として日米双方からよく知られています。制空権は完全に奪われ、艦砲射撃の雨あられの中、日本軍は乏しい弾薬と物資だけで、米軍の予想を数倍も上回る長期間持ちこたえ(圧倒的兵力差から数日程度で征服できるとアメリカ軍は当初考えていましたが、実際には1ヶ月以上戦闘は続きました)、米軍に史上最大の被害を与えました。
栗林中将いわく、「我々が一日でも長く守りつづければ、それだけ本土の国民が長く生きられるのだ」。


正直に言って、映画を見た直後はあまり色々と感想を外に表現したくないような後味を受けました。心の中にずっしりとした深い何かを受けた感じです。
時間が経って、今思いつくことをさらっと書くことにします。


まず、明らかに故意に除外されたと思われる構成上の点は、美談化・英雄化でした。栗林中将や西中佐が英雄的に描かれることはなく、また、日本的な美学でもある自決や玉砕も美しいものとしては描かれない。アメリカに一矢報いてやったという英雄譚としても扱われていません。そういった戦争映画の爽快感のようなものは一切表現されていませんでした。
作戦を遂行するにあたって、それぞれの人間がどのように考え感じたのか、そして彼らがどうなったのか、そういうところがある意味淡々と描かれています。


強く印象に残ったシーンはいくつかあって、1つは、栗林忠道アメリカに留学していた時が回想シーンとして挿入される場面。国家の戦争の前、彼らは「友人」だった。
2つ目は、主人公である西郷(二宮和也)に赤紙が来るシーン。彼の妻は妊娠していました。そのお腹の子が誰かということを考えると、お腹にいる子供の子孫は僕らであるということ。決して、遠い昔に起こった関係のない過去のことではないということでした。
「なぜこの話を知らなかったのか」という所には強く自己批判的になりました。前々から思っていたのですが、歴史に関して、日本の近代史の知識が大きく欠如していることを感じていました。これは、以前に『戦場のピアニスト』を見た時もそう思いました。現代の社会と密接に関わっている、近代史が学校の授業で疎かにされている事実は非難に値すると感じています。


愛国心靖国神社、軽々しく論ずるべき問題ではないという印象を強く受けました。僕自身を含め、太平洋戦争に関して深い知識を持たない方々は、映画を見た後、靖国神社に対する印象を大きく変えるだろうと思います。
驚嘆すべきは、これがハリウッドから贈られてきた映画ということでしょう。しかし、日本人にはどこか描くのがタブーであるというような心理があるのかもしれません。日本人の心の深い事象に切り込むが故に、生半可なものは造れないというような恐怖が。


残念なのは、対になる『父親たちの星条旗』を見損なってしまったこと。まだどこかで上映されていないかな。