大学の企業説明会に参加してきました。

先日、人事の人といっしょに母校の大学に赴き、うちの会社の企業説明会に参加してきました。企業説明会と言っても、大きなセミナー室で何十人、何百人の学生さん対象にプレゼンするというような形ではなくて、学会会場や大規模合同企業説明会でよく見られるようなブース形式の説明会でした。たぶん、30社か40社か集まっていたと思います。
最初は、「まあ、10人から20人ぐらい学生さんが聞きに来てくれたらいい方だろう」とか人事の人も言っていましたが、実際はかなりの学生さんが聞きに来てくれたので、こちらも一日頑張った甲斐がありました。最初に人事の方が会社の一般的な説明としてプレゼンした後、その後に、20分か30分ほど、僕が、日ごろのやりがいとか、どうしてこの会社に決めたのかとか、そういった身近なことをプレゼンしました。


就職活動というものは、学生のうちにあるイベントとしては、極めて重要なものだと僕は思います。それは、アカデミックに進もうが、企業に就職しようが同じことです。前にも何度も言っていますが、アカデミックに進むのも当然就職活動の一部です。ポスドクという職業を志望して募集にアプライし、職業選択するということですから。
さて、就職活動の真っ只中にいる学生さんは、それはもう真剣な面持ちの方が多く、自分の時を少し回顧した瞬間でもありました。学生さんの熱に押されて、プレゼンしているこちらもかなり熱弁になってしまいました。一日だけでしたが、心底疲れました。研究室で実験している方がよっぽど楽ですね…。
プレゼンはもちろん準備してきたことを話したわけですが、話しているうちに熱が入ってくる自分にも気が付きました。自分の時の就職活動は、おそらく深刻な部類に入る就職活動だったと自分で思いますが、自分のやりがいを他人に説明できて、自分の描く将来像の直線上に今の自分は乗っかっているんだと説明できるということは、とても幸福なことだと感じました。少なくともそういう会社で働けていることにとても感謝しています。就職活動を始めてみようかと思い立った当時は、絶望の真っ只中でしたが、なかなか人生捨てたもんではないと思いました。



ところで、うちの会社の分野のせいなのかもしれませんが、見に来られた学生さんの中には、博士課程に所属している方も結構来られました。多くは、生物系の方でした。自分と同じ研究科である学生さんがかなり来られたので(学生さん全体の半分ぐらいは同じ研究科でした)、プレゼンが終わった後、根掘り葉掘り質問されました。何人かの学生さんには30分から1時間ぐらいしゃべってたでしょうか。僕は採用に関係する人間ではないから、どんな質問でも答えるし、それによって採用に影響することはまったくないと言ったからか、うちの会社の枠を超えて、本当にいろいろな質問を受けることができました。
そういった学生さんが一番何を知りたいのかというと、一言で言うと、「研究者として今後どうやってキャリアを選んでいったらいいかがわからない、知りたい」ということでした。これはうちの会社の研究者キャリアという意味ではもちろんありません。アカデミック、企業研究者、ノンアカデミックキャリアを含めて、自分は一体どういう道に進んだらいいのか模索していて、企業研究者の一人として意見が聞きたいということでした。同じように生物学を志して研究者の道を選んだOBとして、どうして企業研究者を選んだのか、キャリアをどうやって考えて今の道を選んだのか、教えてほしいということでした。正直、企業説明会というよりは、もっと一般的な、キャリア相談会みたいな感じになっていました。
なぜポスドクにならなかったのか?アカデミック研究者にはなりたくなかったのか?それともなりたかったけどやめたのか?もともとなりたくなかったから企業研究者になったのか?
他にはどういう企業を受けたのか?サイエンスコミュニケーターをどう思うか?外資系バイオ企業の技術営業職をどう思うか?
アカデミックの研究と企業研究では何が違うのか?企業に行って失望したりはしないのか?大学と関っていくこともあるのか?海外に行けることもあるのか?


修士の方もたくさん来られましたが、修士ならではの質問も沢山ありました。
博士課程に進むことは自分はリスキーだと思うがそのことについてどう思うか?正直、学位にメリットはあるのか?博士の学位を取ってよかったと思える瞬間は本当にあるのか?学位がキャリアに有効に働く場合は本当にあるのか?修士で研究をすることにデメリットはあるのか?海外で学位はどう評価されるのか?企業に入ってから論文博士などで学位を取ることは可能なのか?


大学院ではこういうことを考える機会が根本的に足りていないのだと実感した時でもありました。そういったディスカッションをする場がないのだと思いました。
有名製薬企業を定年された重役の方など、キャリアをまっとうされた方を呼んで、偉い人の経験談や今後の方向性を聞くのもキャリア支援には良いとは思いますが、学生が知りたがっていることはそんなことではないのです。もっと身近な、もっと若い先輩方が、どのような道に進んでいっているのか、それが現役の学生さんが知りたがっていることなのだと思いました。僕の時を考えても、そういったものはほとんどなかったように思います。
大学院が教育として、こういったことを支援するということが必要なのかどうなのか、正直よくわかりません。個人が、個人的にアポを取って、積極的に情報収集に努めるべきなのかもしれません。が、キャリアパスが深刻な問題に達している今、教育として、学生を支援してもいいんじゃないかと思えました。



また、話は変わりますが、就職活動の雰囲気はどうなのか聞きました。生物系の学生さんが言うには、「世間では今年も超売り手市場だと言われているけれども、生物系はそんな実感はない。非常に厳しい。」ということでした。先日も、ノバルティスの筑波研究所閉鎖のニュースがありましたが、外資系製薬撤退が相次いでいる現状、また国内製薬の合併も盛んに行われている現状で、バイオの人材を吸収する企業は、ますます縮小しているような気がします。やはりこういった問題が、バイオ系人材の停滞の大きな原因だと実感しました。