活動依存的な神経伝達物質の種類決定

Borodinsky LN, Root CM, Cronin JA, Sann SB, Gu X, Spitzer NC.
Activity-dependent homeostatic specification of transmitter expression in embryonic neurons.
Nature. 2004 Jun 3;429(6991):523-30.

Spitzer NC, Root CM, Borodinsky LN.
Orchestrating neuronal differentiation: patterns of Ca2+ spikes specify transmitter choice.
Trends Neurosci. 2004 Jul;27(7):415-21.


 神経伝達物質には様々な物質があるが、分化した神経細胞にとって、どのような種類の伝達物質を発現するかという問題は非常に重要である。なぜなら、選択された伝達物質の種類によってその後の神経ネットワークの構築が大きく変化されてしまうかもしれないからだ。例えば、興奮性伝達物質として知られているグルタミン酸アセチルコリン、抑制性伝達物質として知られているGABAやグリシン、そのどちら側を発現するかによって、相手を興奮させるのか抑制するのか、まったく反対の機能を持ってしまう。
 この神経伝達物質の発現がどのように決められるのか。過去の多くの知見は、遺伝的に決定されているというものであった。多くの転写因子群が伝達物質決定に関与していることが知られている。またBMPやShhなどといった分泌性シグナル分子も関与していることが知られていた。


 今回Borodinskyらは、XenopusのSpinal neuronにおいて、活動依存的に伝達物質の発現転換が起きることを非常に明確に示している。活動を抑制すると、興奮性伝達物質を発現するニューロン数が増加し、逆に活動を促進すると、興奮性伝達物質を発現するニューロンが減少、抑制性伝達物質を発現するニューロンが増加する。この転換はin vitroだけでなく、in vivoでも起こることが明らかにされている。この際の一つのポイントは、特定のニューロンで発現するマーカーの発現は変化しないということだ。つまりpopulationが増えてるのではなく、転換しているということ。さらにもう一つのポイントは、この転換は恒常的に行われるということだ。つまりspinal cord組織として、WTと比べて活動的に興奮した場合には抑制性伝達物質の増加が、また活動的に抑制した場合には興奮性伝達物質の増加が起こる。このようにして、組織全体としての恒常性が維持されているのかもしれない。
 彼らは、この伝達物質転換には、発生期のSpinal neuronにおいて観察される自発的Ca+スパイクが重要だと考えている。この自発的Ca+スパイクは、Ca依存性の活動電位(細胞外からのCa流入、および細胞内Caストックのリリース)によって引き起こされ、それぞれの種類のneuronにおいて独特の発生パターンを示す。
 この現象は、神経ネットワークは関与していないと考えられている。実験を行った時期がネットワーク構築以前のステージであること、またcell-cell contactがないin vitroのdissociated neuronでも起こるからである。
 彼ら自身が観察した今回の現象と、過去の知見を合わせて、彼らは次のような統合的モデルを考案している。「転写因子群の発現はneuronの初期運命を決定し、これはイオンチャネルの発現種類をも含む。次にこれらのあるセットのチャネル群が特定のパターンの自発性活動を生み出し、細胞内Ca濃度の一過性な上下運動を引き起こす。チャネルの本来の機能によって自発的に行われる場合と、さらにSignalingタンパク(BMP、Wnt、Shh)によって、調節される場合との両方を含む。spike activityのパターンが活動依存的転写因子群を働かせ、特定の伝達物質を合成する酵素や貯蔵・輸送するタンパク質の転写を調節する。」
 さらに、伝達物質が転換されたneuronが、今後どのように振舞うかも非常に興味深い。post側のreceptorの配置はどうなるのだろうか。そもそも相手は変わってしまうのだろうか。それともpost側の細胞も多様性を持っていて、伝達物質の変化に対応できるのだろうか。
 また、これらの現象は他の生物でも同様なのだろうか。シナプス形成が行われた後でも起こるのだろうか。


 実験中で、自発的Ca+スパイクをいじるために、内向き整流KチャネルKir2.1や、電位依存性NaチャネルrNav2aαβの過剰発現を行っているのだが、メカニズムがよくわからない…。