眼優位性変化における抑制性伝達の重要性

Fagiolini M, Fritschy JM, Low K, Mohler H, Rudolph U, Hensch TK.
Specific GABAA circuits for visual cortical plasticity.
Science. 2004 Mar 12;303(5664):1681-3.

 単眼遮蔽による眼優位性変化の可塑性の続き。抑制性伝達の重要性を示した論文、パート2。GABA作動性の受容体のうち、どのようなサブユニットが重要か検証している。結果、GABAaRα1が重要であることがわかった。これによって、今後具体的にどのような抑制性神経細胞が関わっているのか、どのような抑制性回路が重要なのかが調べられるだろう。

 ベンゾジアゼピン薬は、神経細胞内のある限られたGABAa受容体の特定なアミノ酸に結合し抑制性伝達を制御する。遺伝子操作によりこの薬理学的感受性を一つ一つ取り除いたマウス(ノックインマウス)を用いて、視覚刺激による可塑性の出現を調べた。臨界期前の若いマウスに薬物を投与すると同時に、片目を覆って数日間飼育し、片目を覆う前と後の時点で、左右の目ごとに光刺激(コンピュータ画面上に画像を表示する)を与え、視覚領の各神経細胞がどちらの目からの光刺激に良く応答するかを電気生理学的に測定した。
 正常なマウスでは、視覚領の神経細胞は左の目からの光刺激に良く応答するものと右の目からの光刺激に良く応答するものとが一定の割合で存在している。また、臨界期にないマウスでは、片目を覆って飼育する前と後でもこの割合は変化しない。しかし、臨界期中のマウスの片目を覆って飼育すると、覆わなかった目からの視覚刺激により神経回路が発達して、光刺激に良く応答する神経細胞の割合が増加する。従って、臨界期前のノックインマウスに片目を覆って飼育した結果、覆わなかった目からの光刺激に良く応答する神経細胞の割合が増加すれば、早まって臨界期が出現したと考えられる。
 実験の結果、神経伝達の受けてであるGABAa受容体(20種類)のうち、α1サブユニットの機能を取り除いたノックインマウス以外では、開眼直後で臨界期における可塑性が出現し、通常のマウスに比べて10日早まって出現した。すなわち、抑制性の情報伝達によって神経の可塑性を司るのは、GABAaのα1受容体であることが明らかとなった。

 大脳皮質のPyramidal neuronに投射する抑制性神経細胞として、主にChandalier cellとlarge basket cellが知られているが、α1サブユニットが重要なことから、筆者らはlarge basket cellが重要ではないかと考えているようだ。large basket cellはPyramidal neuronの細胞体にシナプスを形成し、back-propagationを制御し、spike-timingをコントロールしていると考えられる。