眼優位性変化における抑制性伝達の重要性

Fagiolini M, Hensch TK.
Inhibitory threshold for critical-period activation in primary visual cortex.
Nature. 2000 Mar 9;404(6774):183-6.

2/3などの日記に記載した、単眼遮蔽による眼優位性変化の可塑性の続き。抑制性伝達の重要性を示した論文。
情報伝達の抑制性を押さえたノックアウトマウス(GAD65-/-)では、大人に成長するまでの間に可塑性は発現せず、従って臨界期(Critical Period)も出現しなかった。しかし、この成長したマウスに、抑制性の刺激を与える薬剤(ジアゼパム精神安定剤の一種)を投与すると可塑性が発現した。すなわち、成長したマウスに人工的に臨界期を出現させることができた。
正常なマウスに、臨界期が出現する前の、生まれて間もない時期にジアゼパムを投与することにより、通常よりも早く臨界期を出現させることが出来た。生まれて間もない時期では、脳内神経回路の抑制性が充分に発達していないこと、及び上記の結果から、可塑性の発現(臨界期の出現)には一定のレベルの抑制性の刺激が不可欠であることが明らかとなった。
臨界期を経た正常なマウス及び薬剤により人工的に臨界期を出現させたマウスのどちらも、臨界期を過ぎた後では薬剤を投与しても再び臨界期を出現させることは出来なかった。これより、臨界期は生涯のうち1回しか出現しないということが分かった。
 これらの結果より、マウスの視覚領では神経回路の発達が起こる臨界期の出現には一定のレベルの抑制性の刺激が不可欠であり、また抑制性を操作することにより臨界期の出現時期を変化させることが出来る、ということが初めて示された。