ADLib法 生物多様化の仕組みを応用した迅速で自在な抗体作製法を開発

Hidetaka Seo, Mieko Masuoka, Hiromu Murofushi, Shunichi Takeda, Takehiko Shibata & Kunihiro OhtaRapid generation of specific antibodies by enhanced homologous recombination
Nature Biotechnology Published online: 29 May 2005

モノクローナル抗体作製は実験動物に免疫して抗体を得るまでに時間がかかる(通常、4−6ヶ月程度)。またマウスなどの実験動物に注射して免疫感作するので、異物として認識されにくい生物種間で保存されたタンパク質、糖鎖、病原体、毒素、立体構造の変質が起きやすい膜タンパク質などの中には、抗体作製が大変困難なものが存在する。
筆者らは、ニワトリBリンパ球細胞由来の培養細胞株DT40*1を用いて、まず薬剤トリコスタチンA*2処理により、抗体遺伝子におけるDNA再編成の頻度を増大させた。これにより、様々に可変した抗体遺伝子座を持つ細胞集団が得られることになり、これは様々な結合性を持つ(いろんな抗原を認識できる)抗体を産生する、細胞集団が得られたことになる。
この非常に多様化した抗体産生細胞集団から、抗原+磁気ビーズを用いて、その抗原に結合する抗体細胞クローンをスクリーニングする。
このADLib法の特徴は、モノクローナル抗体作製期間が抜群に早いこと(約1週間)、免疫寛容などによって動物免疫では得にくい抗体作製が可能であること、動物を使わないので施設等が必要にならないこと、抗原量が微量でもよいこと、自動化が可能なこと、などである。
今のとこ、気になったことは、(1)ニワトリモノクローナルであること(マウスモノクロだったらなおいいのに)、(2)人工的DNA再編成増加という方法で、どのくらい抗原認識特異性のでかいレパートリーが作れるのかということ(生体内での自然発生的なDNA編成確率と比べて)だが。。。
あと、他にもファージディスプレイ法というのが以前からあったらしいのだが、勉強不足で、ADLib法の特徴とどの辺が違うのかよくわからない。。。
<追記>ファージディスプレイ法による抗体作製
大腸菌に感染する病原体であるファージの粒子タンパク質遺伝子に、多様性を持った抗体遺伝子ライブラリーを組み込み、目的抗原に結合するファージを回収して、擬似的なモノクローナル抗体を得る手法。実用には得られた遺伝子を改変して、完全抗体にする必要がある。

*1:ニワトリBリンパ球細胞由来の培養細胞株であり、無限増殖能力を有する。低頻度ながら抗体遺伝子座での組換えが観察されるほか、条件によっては抗体遺伝子座の体細胞突然変異が誘発可能である。表面レセプター型と分泌型のIgMを産生することが出来る。体細胞相同DNA組換え頻度が高いと言う特性があり、実験室レベルの遺伝子ターゲティング実験に多用される。

*2:クロマチンを弛緩する働きを持つ。ヒストンH3もしくはH4のN末端部分のリジン残基のアセチル化を除去する酵素ヒストン脱アセチル化酵素)の阻害剤。結果的にヒストンのアセチル化を昂進する働きがある。