(1) 自分の経歴を語る難しさ

早速だが、1つ強烈に思ったことは、自分の経歴を語る難しさである。
〜なぜこの業界か? なぜわが社か?〜
といった類の志望動機を当然考えるわけだが、博士課程の人はさらに、
〜なぜ博士課程に進んで、今わが社を志望しているのか?〜
という問題が圧し掛かる。

〜なぜ今、就職しようと思ったのか?〜
これにちゃんと答えることは強烈に難しい。これはつまり以下のものを含む。
◇なぜ今の学問を勉強しようと思ったのか?(なぜ今の研究室を選んだのか?)
◇なぜ修士に行こうと思ったのか?
◇なぜ博士に行こうと思ったのか?(周りで修士で就職する人が沢山いる中でなぜキミは就活せず博士課程に行こうと思ったのか?)
 :博士課程に行ってる人でちゃんとこれに答えられる人は多いだろうか…?
◇そのとき、博士課程に行こうと思ったのに、なぜ今就職活動をするのか?(なぜアカデミアの研究をやめようとしているのか?)


「0から頑張ります!」や「博士課程に進んだことを後悔しています。取り戻します!」といった類の言い方をしていた時もあるが、これでは一向にダメだった。博士をすんなり出たとしても、28歳前後。28歳という年齢は、「0から頑張れる」ような年齢ではないのだ。また修士と比べれば3年、学部と比べれば5年、「取り戻せる」ような年齢でもない。実際、最終面接にまで進めた企業を省みても、自分の専門が少しであっても活かせる業界である。
上記の質問の根底には、大学で学んできたことそのものを企業はあまり評価していないということが潜んでいる。基礎科学の研究の考え方は役に立たないものではないとは思うが、あまり評価はされない。企業の経営と直結するような知識や技術が身につく研究であれば話は違うが。「なぜ博士課程まで行って、うちに来たいの?」という質問は、博士課程と企業とが大きく隔てられた道をそれぞれ形成している感じを受ける。だから、「なぜ道を変えるの?」と聞かれるわけだ。そこで、「0から頑張ります」ではダメで、修士・博士のときに培った「何か」をポジティブにポジティブに表現することに努めた。これはなかなか容易なことではなかった。
「前職の悪口を言ってはいけない」 転職者のための面接試験必勝法に書かれていたことだが、ある面接官は「前職でうまくいかなかったことがあるのは一向に構わないが、それをネガティブな表現で説明する人は採用しない。例えば、『こういう人がいてその人が邪魔してうまくいかなかった』など」と言っていた。
最終的には、「修士・博士・御社への志望も、自分の中ではすべて同じレールに乗っている。もともと達成したいある夢がある。この夢を達成するために、博士課程に行ったが、そこでは達成できない、こういう理由があった。」という形で行った。