(9) 就職という概念が頭の中にあるかどうか

とにかくSさんにはお世話になった。就職活動を始める際の最初の一歩に重要だった。研究を続けるか否か、就職活動というものはどんなものか、周りを見渡せど、誰もそんな人いない。先輩にも後輩にも。修士で就活した人もいない。どんな感じなのかさっぱりわからない。そんな中、いきなり連絡取ったのに、すごく丁寧に色々教えてもらい、とても助かった。そういった動き始めるための「きっかけ」というものは非常に重要だと思う。恐怖の暗闇の中に足を一歩踏み込むための、背中を押してくれるようなものが。博士課程の方の中には、そういったものがないために就職を考えても実行に移さない方も多いのではないかと思う。また、「就職」という言葉自体、耳に入ってこないから、「概念として」就職活動が自分の中にない方もたくさんおられるだろう。僕の場合も、同じようなそういう環境で、Sさんやその他、お世話になった方々に相談することによって初めて、「就職活動をする」という選択肢が誕生したわけである。これからの人はたとえアカデミアを目指す方でも、学部・修士・博士と進む、その節々で、必ず「選択肢」を考慮して吟味してもらいたいと思う。また、リスクマネジメントとして、そうする方が今後増えるだろう、というか、増えることを望む。
このブログを通して、経験談なり考え方なりをえらそうに書いているのも、そういった、誰かの考えるきっかけになれば、と思うからである。実際、僕は、そういうものを求めて、ほとんど見つからなかったから。

補足として、とはいえ、修士で進学か就職かの「選択肢を考慮する、吟味する」はほとんど不可能ではないかとも思う。進学を吟味する題材は、たとえ4回生から実験している人だとしても、たった1年半ぐらいだ。もし、修士から別の研究室に移って始めたのなら、入って半年ほどで就職活動を始めなければいけない。やり方もわかってきて、実験データも出てきて、「面白い」と思える時期だろう。その時期に、あえて実験を停止する決断を下すのはなかなかできることではないのではないかと思う。特に、その軌道に乗り始めた時期に、担当教官に就職する旨を伝えることはなかなか厳しいだろう。実際、就活を勧めたり、実験停止に同意したりする教官らはごく稀であろう、なぜなら教官らにとっては、実験の進行が彼らの利益になるからだ(そこに極めて大きな問題があると思うが、それはまた別の機会に)。薬学・バイオ系は、製薬企業の早過ぎる就職活動時期のために、特にその影響を受けやすいと思う。となると、すんなり修士で就活できる人というのは、大学院に進学した時点で、就職することをかなり強く決めている人だけではないか。