眼優位性変化の続き(2)

Mataga N, Mizuguchi Y, Hensch TK.
Experience-dependent pruning of dendritic spines in visual cortex by tissue plasminogen activator.
Neuron. 2004 Dec 16;44(6):1031-41.

Mataga N, Nagai N, Hensch TK.
Permissive proteolytic activity for visual cortical plasticity.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 May 28;99(11):7717-21.

 視覚野の神経細胞には左目からの入力に良く応答するものと右目からの入力に良く応答するものとが一定の割合で存在し、偏っている(眼優位性OD)。ところが、片目を遮蔽して飼育すると(単眼遮蔽MD)、非遮蔽眼からの刺激により神経回路が発達して、非遮蔽眼に良く応答する神経細胞が増加する。これを、眼優位性変化といい、経験依存的な可塑性の模範例としてよく研究されている。この現象は、誕生直後のCritical period(臨界期)にのみ起こり、成体では起こらない。
 この論文では、固定したスライスにDiIをGene gunで打ち込み、スパイン形態を観察するという手法を用いている。単眼遮蔽によって、視覚野両眼視領域でPyramidal neuronのスパイン数が減少する。このシナプス変化は、GAD65-/-マウスでは起こらなくなる。これは抑制性神経活動が眼優位性変化に必要であるという過去の知見と一致する。
 また、tPA*1-/-マウスでも同様にシナプス変化が起こらなくなる。
 tPAは「スパイン形態の変化を許可する構造にする」と考えられる。最終的に開眼からの入力によく反応するようになる(反応するスパインが多くなるのだろう)のは、あくまで入力の競合のためである。tPAの局所的な活性がスパインを不安定化しているとは考えていない。なぜならtPA-/-マウスを外来のtPA注入でレスキューできるからだ。tPA自体が局所的に効いているとは考えられない。このことから、活動シナプスと非活動シナプスの違いを表すには、tPAの作用相手の違いが必要である。
 では、tPAが分解しているものは何なのだろうか?色々示唆されるが、彼らは接着分子によるモデルを提示している。NCAMはtPA分解サイトを持つが、Cadherin群はtPA分解サイトを持たない。このことから、彼らは「活動依存的に活発なシナプスでは、tPA耐性分子(例えばCadherin)が多く存在し、安定化されている。一方、非活動シナプスではtPA非耐性分子(NCAM)が存在し、tPAによってシナプスが最終的に除去される。」と考えているようだ。

*1:セリンプロテアーゼ、tissue-type Plasminogen activatorの略。Plasminogenを酵素Plasmin(活性化型)へと変える。自身も細胞外マトリックスのタンパク分解作用などを持つ。もともとは血栓溶解(Plasminがフィブリンを分解)で研究された分子である(tPAは心筋梗塞の薬)。ところが、tPAはそれ以外にも多種の現象に関わり、突起伸長、細胞移動、神経細胞の再生など(邪魔な細胞外がすっきりするから?)にも関わるが、最も興味深いのは長期増強、学習や記憶など(シナプス変化に関係)に関わっていることである。tPA-/-では学習や記憶が低下することが知られている。普段はPreシナプス内にあると考えられている。tPAの転写や分泌は活動依存的に起こり、BDNF加えることによって起こる。