(10) 面接について

最初に、あくまで自分の体験による経験談であるから、人それぞれのやり方・考え方があると思うし、企業によっても大きく変わるので、何が良いとか悪いとかは基本的にはわからない。ただ、博士課程在籍者の就職活動としての体験談は非常に稀で、自分も他人の体験談がほとんどないことから来る見通しのなさにとても苦労したので、この経験を記すことは重要であると思い、自分の経験からの思いを記載することにする。
ちなみに、「自分の思いをそのまま伝えるのが一番」というアドバイスをよく聞くが、僕はそうは思わない。素直に話すのが一番情熱がこもるし、詰まらないし、話しやすいとは思う。また、このアドバイスを聞いて、緊張がほぐれて、リラックスして臨めるという意味では良い。しかし、やはり、ものには言い方というものがあり、特に博士課程者はネガティブな動機から就職活動する方が多いと思うので、ものの言い方は重要であり、企業に就職しようと思っている時に「言わない方がいいこと」はある気がする。或いは、逆の意味で言うと、「そのまま伝えられる」ようなレベルにまで、自分の中で煮詰めて煮詰めて、自己分析の論理をポジティブに完成させ、「こう話そう」と思わなくても口から出てくるレベルが良いと思う。


まず、「何がいいかは個人個人違う」と上で述べたが、どんな人であれ共通して重要だと思うことは、面接を出来るだけ体験するということだ。研究室で実験をやっている人間にとって、自分の研究の発表会は研究室内の定期的なディスカッションを含めて、卒論時や修論時など、あるいは学会の口頭発表やポスター発表など、幾度かあっただろう。また文献紹介セミナーの経験も豊富だろう。しかし、自己そのものを表現する機会はほとんどなかったと思う。日本の教育において、「私の○な所が素晴らしい!」なんて発表する機会はほとんどないに違いない。どちらかというと、自分を自慢したり褒めたりすることははしたない事だという概念がある。だから、面接のときに緊張する、うまくできないのは当たり前だ。やったことないんだから。世間では模擬面接なども行われているが(実際、大学のキャリアサポート室でも模擬面接をやってくれていた)、もし機会があるなら受けた方がいいと思う。
多くの本で書かれていたこととして、「第一希望の企業を使って、面接練習するな」ということがある。本人はその気でなくても、面接でこう言った方がいいとか、こういうことは言わない方がいいとかは、かなり慣れの部分が大きい。就活開始直後と修了間際では、面接における慣れは全然違う。そのため、慣れていない最初の段階で、第一希望にアタックするのは好ましくないということである。ただしこれは、何も第一希望の会社を受けるのを遅らせろと言っているのではなくて、その前に第23希望だったとしても、企業をたくさん受けて面接の経験を積んで慣れようということである。
「どうして博士課程まで行って、企業に就職しようと思うのか?」「アカデミアに残りたくはないのか?」この質問は、あらゆる会社で、あらゆる段階の面接でされた。まぁ、当然だとは思う。以前の日記(3/27)にも書いたが、博士課程の就職活動において、この問いかけにちゃんと答えられるかどうかが、最も核心の部分である。一般的な志望動機(自分の夢や希望業界・業種など)や、自己PR(自分の性格や、趣味やスポーツなど)をどれほどうまく表現して伝えようと、上記の質問に答えられなければアウトである。
最近よく思うのは、博士課程の就活人というのは、「キャリアがない転職」のようである。博士課程といえども学生なのだから、社会人のキャリアは当然まったくない。ところが、博士課程からの就職は「道を変える」とみなされる場合がほとんどで、まるで「転職」するかのようだ。一般の転職に際して、転職理由が肝であるのと同様に、博士の就活でも、「転職理由」が肝となる。


グループディスカッション
多くの企業で、選考途中に組み込まれているのが、このグループディスカッションで、集団面接(学生4人ぐらいVS企業側)、個人面接(学生1人VS企業側)と異なり、学生が10人ほどでグループを作り、議論したりゲームしたりする。その周りで、企業側の人間が、学生の言動をメモする感じだ。企業では、仕事を多人数で行うことが日常茶飯事なので、人間の集団として動けるかどうかを見るために取り入れている企業が多いようだ。内容はほんとに色々で、実際の企業内容を盛り込んで練りに練っているところもあれば、単にクイズをみんなで解くようなものもあった。
いくつか経験してみて以下のようなことを思った。まず、もともと欧米のものを取り入れたらしく、外資系の企業では重要視されているように感じた。何を見ているかというと、自己主張を行える能力と、集団に自分の意見を通す能力、場の空気を読める能力、この辺りを見ているのではないかと思った。いくつかの本には、「リーダー(議論の先導役)となった方が得だ」と書かれていたが、他の本には「リーダーとなる必要はない」と書かれていた。ポイントは「自分の意見を集団に反映させること」であると思った。リーダーとなって話を引っ張った方が色々と意見を言いやすいのは確かであるが、別にリーダーにならなくても、意見を言うことはできる。また、いろんな意見が出る中で、周りと歩調を合わせて自分の意見を浸透させることが見られていると思った。正しく論理的で正解である意見だったとしても、場の空気を読んで、周りの同意が得られなければ意味がないような感じだった。また、自分の意見が通らなかったからといって、意固地になってはいけない。周りと歩調を合わさなければいけないのだ。さらに、あえて相手を言い負かさなければならない、説得せねばならない、ような状況も多々あった。それは議題がわざとそうなるように仕組んであるのだ。例えば、「学生10人がそれぞれ異なる職業の人の役をする。1つの飛行機に10人乗っているが、飛行機が故障して2人飛び降りなければいけない。誰が残り誰が飛び降りるか。」というような議題。自分が生き残るよう頑張るのが前提で、自分が生き残るのがベターだという論理を考えて、相手を言いくるめなければいけないようなこともあった。全体的には、場の雰囲気を保ちながら、積極的に自分の論理を通していくような姿勢がいいのではないだろうか。
ほとんどの場合、その場で初めて会った人ばかりなので、ディスカッションが始まる前から世間話をして和んで、ある程度溶け込むような、そういった社交性のようなものも重要な気がしたが、博士課程の人の場合、結構「浮く」ことが多い。それは研究生活という特殊な環境ゆえなのか、年齢のせいなのか、個人的な問題なのかわからないが、「普通に」就活してそこに来ている学生達と話を合わせることはそれなりに違和感があった。ちなみに、僕の場合、博士課程であることはめったなことでは明かさなかった。その方が親近感が湧くだろうと思ったからだ。
補足として、グループディスカッションも他の面接と同じく、やはり「慣れ」が重要な気がした。


最終面接
最終面接まで行けば、あと一息だ。ただし、注意しなくてはならないのは最終面接とは意思確認の場ではないということ。あくまで選考の一部である。僕の場合、どうしても最終面接まで行くと、「無難」に事を進めたくなった。変なことを言わないようにとか、志望動機・自己アピールの推敲とか。そのため、どうしても少し消極的になりがちになったが、これは大きな間違いであった。最終面接でも倍率3倍4倍は当たり前の昨今であるため、最終面接であってもがんがんに攻めることが重要のようだ。ただし、最終面接の場にまで行けるということは、人事はパスしているということなので、つまり、人事は「この人を自信を持って、推薦しよう。」と思っているわけで、その部分は大いに自信を持って行くべし。他の下位の面接と異なるところは、実際の業務に関してかなり具体的な話が出たことと、とにかく熱意を見られるような質問が多かったことだった。


最後は熱意
「こいつ、ほんとにうちに来る気あんのかな?」という問題が最後の難関である。どのような段階の選考であれ、「わが社の志望度合いはどれぐらいですか?」と聞かれたら、「第一志望です!」とはっきり言うこと。たとえ、迷っている会社がたくさんあったとしても、それは内定をもらってから選択したらいい話なので(内定もらえなかったら選択することなどそもそもできない)、「迷ってる」とか言わない。結果的に行かない企業には、基本的に、内定をもらった後で丁重にお断りすればいいだけの話だ。人事としては、本当に来る人、内定者の頭数に確定していい人に内定を与えるのが当然だろう。
どこへ行っても「御社が第一志望」で押し通すべし。たとえ第27希望だとしても、「御社が第一志望」だと真顔で言えるようでなければサラリーマンは勤まらないと、何かに書いてあった。そうなのかもしれない。
あと、ごちゃごちゃ言わない。「第一志望です!」、一言でよい。志望順位に限ったことではないけれども、相手の眼をしっかりと見て(人事は鋭くこちらを見つめてくる場合が多い)、「私はここで働きたいんだ」と大きな声で主張すること!
ただし、理由をその後で聞かれる場合も多いので、第一志望である理由は明確に考えておくこと。志望動機を考えるところとも大いに関係するが、「色々な業界・業種を見てまわって、就職活動している」というのは普通であり、悪いことではない。少数しか受けていないというのは逆にリスクマネジメントができないのではないかと思われる。特に博士課程者の就職難は周知の事実であるから、「なかなか厳しいので、広範囲に就活を展開している」というのはむしろ「実情を把握している」というアピールポイントである。ただし、「たくさん見てきたが、御社がやっぱり一番」である理由を明確に考えるべし。例えば、自分は「業種、職種を色々見てきたが、やはり当初思っていた通り、私は何が何でも○×がやりたい。それに携わることが、自分が最も力を発揮できる場所だと思うし、楽しくやりがいを感じながら仕事ができる場所だと思う。」というような感じにした。また、同業他社を受けている場合もすごく多いと思うが、同じ業界なのに、なぜ御社かというところもしっかり。ある程度、同じような仕事ができるのに(例えば、他の会社でも自分の希望が達成されそうなのに)、なぜ他の会社ではなく、御社なのかというところを必死に考えた。
ちなみに、選考が進むと、若手の人事と、面接室以外での話をする機会が設けられる場合が多かった。「面接室で聞きにくいことがあったら聞いてね。」とか、「仕事内容だけじゃなく、私生活とかも含めて何でも聞いてね。」とかよく言われた。その中で、面接本とかにも書かれていることだが、「志望順位はどうですか?」とか「他の選考はどうなっていますか?」とか聞かれることがあった。そういった場では、ざっくばらんに「本音」を話してしまいそうになるが、その若手人事もあくまで「選考を行っている向こう側の人間」であることを忘れずに。余計なことを言う必要はないし、本音を正直に言う必要もない。(こういうのはよくあるらしく、なんか名前が付いていたが忘れた。)
最後に、繰り返しになるが、最後は熱意である。修士で就活した友人からのアドバイスだったが、全身で、みなぎる熱意で、御社に入りたいことをアピール。体が前へ傾くぐらい。人事の上や、役員まで進めば、細かい所はいいから、会社に入りたいんだという熱意を見ている。就活は恋愛に喩えられることが多いが、やはり最後は心の底から「好きだ!愛してる!」と言ってくれる相手を採りたくなるのが人の本質なのだろう。最終面接前には僕もアリナミンVをいっきして臨んだ。終わった後は、ぐったり疲れるぐらいだった。