嗅覚受容体 追記②

以前、嗅覚受容体選択に関して、芹沢氏らの「機能的ORタンパクによるnegative feedback仮説」を記載したが、それに関する追記。
具体的なnegative feedbackメカニズムなんて必要ないのではないかという説←Peter Mombaertsら

Mombaerts P.
Odorant receptor gene choice in olfactory sensory neurons: the one receptor-one neuron hypothesis revisited.
Curr Opin Neurobiol. 2004 Feb;14(1):31-6. Review.

(重要なポイントの要約)「われわれはoligogenic(少数OR遺伝子発現)仮説を提唱し、それはOR遺伝子選択における低確率性の基盤を形成するのではないかと考える。しかしすべての細胞において共通する法則である必要はない。これはポアソン分布によって成立する。つまり、もし発現の発生度平均値が1なら、0のもの、1のもの、2のものの比は0.37:0.37:0.18になる。
0個発現細胞はおそらく死ぬだろうし、どんな実験においてもこれは検出されえない。
1つ以上発現した細胞がポジティブに選択され、ORは次の分化のためのチェックポイントとなる。
2個以上発現した細胞はstableなグロメルリを形成できないため、時間とともに消失していく。或いは、あいまいな反応を起こす性質のため、以降の活動依存的メカニズムによって除去される。しかし、ごくまれに、発現した複数ORタンパクのコンビネーションが問題ない場合に生き残る。もし共発現した相手が偽遺伝子やORFを欠いた遺伝子であった場合、その細胞は生き残るのである。adultにおいて、それらの存在はnegative feedback regulationと誤解されるかもしれない。
つまりoligogenic仮説はポジティブ選択(少なくとも1つのORを発現)とネガティブ選択(2つ以上のORを発現するものの除去、または不適応なセットのORを発現するものの除去)の両方を含んでいる。
このdevelopmental oligogenic仮説はolfactory epitheliumがよりダイナミックに変化することに依存している。cell culture systemなしでは、single cell levelでのORを介するnegative feedbackなのか、population levelでのnegative selectionなのか判断できない。すべてのOSNにおける限定されたORの過剰発現の実験がこの問題の解決のヒントになるかもしれないが、機能的OR発現がチェックポイントとして働いているかもしれないので、過剰発現実験は選択性自体が失われてしまうかもしれない。またadultではOR選択のメカニズムを検証する上で遅すぎる。OSNの生まれ変わりは低頻度なので、選択イベントに関して研究するべき時は見過ごされてしまっているかもしれない。」
このように、彼らはnegative feedback仮説に関してはかなり批判的だ。機能的ORタンパク発現から別のORタンパク発現阻害への、具体的なシグナル伝達は必要ないのではないかというのが彼らの主張である。
彼らのモデルでは、まず「そもそも発現頻度が異常に低く、1個2個というレベルでしか発現されない」という前提がある。その後、「とりあえず機能的ORタンパクを少なくとも1つは発現する」ということがOSN生存に必要で(チェックポイント)、「複数のORを発現した場合など細胞にとって不適切な状態になった時は除去される」ということになる。
彼らの主張は「発生後期修正型」なので、発生初期には複数のORタンパクを発現している細胞が結構いるということになる。またそれらは何らかの「不安定要素」を持っているということになるはずだ。そういった細胞が電気生理学的に「不安定」であったり、複数のグロメルリに投射していたりしているというデータがほしいところだが。