アイデアを医療に持ち込めるか?

これまでいくつかの博士課程の就職活動に関するエントリーを書いてきましたが、前回のもので、就職活動を回想するタイプのエントリーはとりあえず一つの区切りを持ちたいと思います。というか、書くことがなくなってきたというのが本音です。残すべきだと考え、思いついた内容は今のところ全部書いたので、また書きたいことが思いつけば書きたいと思います。

就職活動エントリーは学生さん達へのメッセージとしての記録だったのですが、自分のための記録でもありました。自分の決断の落とし前として、将来、たとえば自分の進路はこれで合っているのだろうかと悩んだとき、もう一度自分で読み直して、自分はその時このように考えて進路を決断してきたのだと再認識することができると思います。一つにはそういう意味を含めて記録を残しておこうと思っていたわけです。

ただ、過去のことなんだから当たり前だと言えば当たり前なんですが、これまでのエントリーは意識が後ろ向きだったものが多かったなと最近は思います。そこで、もう少し前向きの意識を増やしていこうかなと思っています。まあ、前向きというか、現在進行形の人生を書くだけなんですけど。


上期も終わり、目標設定に対する自己評価なども終わりました。自分の所属チームの1つの節目も訪れ、チーム全体の今後の進み方を検討し直す時期である気がします。
研究チームのテーマはそれなりに重要なテーマなのですが、実現可能か?というところに大きな疑問が残る現状です。ここはアカデミアと大きく異なる点だと思われます。つまり、論文を書いたり、特許を取得したりするのは、商品化への一つの通過点に過ぎず、いくらいい論文を書いたところで(もちろん論文だけでも企業の宣伝にはなりますが)売れない商品を作っては意味がないわけです。逆に、たとえ、コンセプトは誰かの模倣品であっても、技術の寄せ集めであっても、大きな影響を与える商品を世に送り出せば勝ちなわけです。
商品の能力は非常に高くても、医療界に受け入れられないものであったならば、誰にも買ってもらえず、良い製品ではなくなってしまう場合もあります。最近はここの問題に悩んでいます。


いいものなら誰でも買うかというと、そうではないのが現実です。たとえば、手術における医療機器などがいい例です。
現在、手術をどうやってモニタリングしているかというと、心拍数と血圧と呼吸数と体温と白血球数と、そういった一般的な生体値を用いて患者の状態を把握しているわけですが、20年後30年後にそんなことをやっているかというと、おそらくそうではないでしょう。例えば、血中の分泌物質を測定したり、臓器の状態を測定したり、より分子生物学的な情報が手元にあると思います(現在でも既に、というかとっくに始めている医療機関も多いですが)。また、遺伝学的(?)に、この人は侵襲に対して抵抗性が低いだとか、麻酔薬や抗炎症薬の応答性が低い遺伝子を持っているだとか、そういった情報も手元にあるのではないかと思われます。
しかし、じゃあ、そういったものを測定できる機械ができたとして、それがすぐに外科医に受け入れられるかというと、まったくそうではないというのは想像に難くないと思います。手術というのは、ある意味、最も職人的な医者の聖域であって、そこに一メーカーが入っていけるかというと、非常に厳しいものがあります。


また、もっと手前の現実的な問題として、そもそも手術などの場面で使う機器の有効性を治験の段階でどうやって証明したらいいのかという問題があります。機器が「患者が危ないよ」と知らせたとしても、果たして医師はその機器の助言に素直に従うでしょうか。また、機器の助言に従うパターンと従わないパターンと、というように人体実験することはできません。こういうところに応用研究の難しさ、特にヒトを扱う研究の難しさを感じます。



ゴールは一応明確に決められています。もちろん、種々の理由でゴールは変動します。企業研究の難しさは、同時にやり甲斐は、どうやってそれを実現するかということに尽きるのではないかと思われます。また同時に、実現可能でかつ、価値の高いテーマをどうやって探してくるかにも大きなポイントが置かれます。ゴールをどうやって達成するかという戦略は、難しいですけど面白いと思う今日この頃です。